ELLE KOREA 2018年7月号 KAI 特集ページ 日本語訳
最近、マルセイユプロヴァンス空港がこれほど忙しかったことはあっただろうか。
ニューヨーク、ロンドン、フィレンツェに続き、フランス南部アルルで開かれたグッチの2019クルーズショーのために、各国から集められたファッション人とセレブリティ、プレス達の相次ぐ到着で何時よりも騒がしかった後門だ。
「一番最後に到着するVIPです」
すっきりとしたブラックスーツ姿のグッチハウス担当者達が、フランス南部に入城するコリアン特級セレブに合わせて空港に忙しい様子で行き来した。
今回グッチクルーズショーに韓国代表で参加するEXOカイがその主人公。
デビュー以来初海外コレクション参加であり、同時代で最も「ホット」なブランドであるグッチのクルーズショーに合わせるカイの特別な一日に同行することになるELLEも、やはり共に彼の到着を待っていた。
待っていたカイの姿を見ようと早くから集まっていたファンたちの歓声がすぐに上がった。
少しの間空港の人だかりを目撃したグッチハウスは、カイに会うために夜遅くに空港にやってきたファン達を見て驚きを隠せなかった。
自身を待ってくれたファンに感謝の挨拶で応えたカイは、明日開かれるショーのために直ちに空港を去って行った。
翌日午後、カイに会うためにヴィララコストゥ(Villa La Coste)に向かった。
ショーゲスト達の最大のイシューは朝早くから降った大雨が「果たして止むか」だった(夜遅くまで夕立が予告されていた!)。
ホテルに到着するや否や雨が徐々に静まると、有難い太陽が少しずつ姿を現した。
完璧なタイミングだった。
ギャラリーを彷彿させる彼の部屋に入ると、ルーズなストライプシャツを着たカイが特有の明るい笑顔で我々を迎えた。
長時間のフライトで疲れていただろうに、カイはいつものようにスタッフ達と会話しながら場の雰囲気をリードしていた。
韓国とミラノから運ばれてきた様々な衣服と、存在感あるアクセサリーがセッティングされたクローゼットを眺めた後、雰囲気を高める音楽を選んだELLE撮影チームに向かって、ヘアセットを終えたカイの活気に満ちた声が入ってきた。
「音楽流しましょうか?」
自身のプレイリストをゆっくりと吟味したカイの一曲目はダニエルシーザー(Daniel Ceaser)の「ジャパニーズデニム(Japanese Denim)」。
甘美な旋律に合わせて自由に準備が始まると、カメラのシャッターにもリズムが乗った。
まずフィッティングした衣装はグッチ2018 F/Wショーのオープニングルックにもなったグレイカラーのヘリンボーンスーツ、ニューヨークヤンキースチームのエンブレムであるNYロゴに彼の視線が刺さった。
続いてバーガンディカラーのオーバーサイズニットとプレートパターンパンツに着替えた彼のボールドなリングとネックレス、ヘッドピースを繰り返し比べた(以前ELLEスタイルアワーズでスーパーKPOPグループ賞を代表で受賞したカイだけに、あれこれとジャケットのディテールを眺めながら衣装をチェックする姿は今更驚くことでもない)。
細部までこだわったフィットのジャケットまで加え、ビンテージモードが彼の落ち着きながらもシックな雰囲気と調和した。
今日のショーのためのルックが選び抜かれ、鏡の中の自分の姿まで最終チェックを終えたカイは、ちょうど流れてきたバッツィ(Bazzi)の「マイセルフ(Myself)」のサビを口ずさみながらスワッグ感のあるダンスまで見せた。
すぐにショーの場へ向かう彼の表情にときめきが広がった。
少し休息をとった彼の手には、いつのまにかグッチクルーズショーゲスト達に送られたギフトのフローラルパターンのキルティングバッグが抱えられていた。
「グッチアルル、アリスカンでの散策」という言葉が刻まれたバッグに、また一度好奇心発動!
フラワー刺繍ストラップを観察したカイは、バッグを持ったり背負ってみたりして子供のような笑顔でカバンをひっくり返しながら言った。
「こうやって持つのはどうですか?雰囲気変わらないですか?」
午後7時30分、本当の「アリスカンでの散策」を楽しむためにショーの場へ行く支度を急いだ。
車で1時間ほどかかって到着したショー会場。
カイの到着を直感したファン達が歓喜の声をあげた。
クリスタルフリンジが施されたヘッドピースで画竜点睛となったカイの姿は、皆の耳目を虜にした。
彼に向かった取材の熱気は、古代の石棺が並び立った小道の先に準備されたフォトウォールで高まった。
ジュエルのフリンジの間から見える彼の眼差しと顔を捉えるためにカメラを忙しく動かした取材陣は、ヘッドピースを外したカイの姿に再びフラッシュ洗礼を発した。
今日のショーにはカイをはじめエルトンジョン(Elton John)、エイサップロッキー(A$AP ROCKY)、シアーシャローナン(Saoirse Ronan)、ソコ(SOKO)、ルードワイヨン(Lou Doillon)など、グッチが愛する、我こそはというスター達が出席した。
「本当に楽しみです」
ファッションセレブ達と出会いの挨拶を交わし、すぐにミラーボックスとなったフロント席に着席したカイは、始まるショーに対する期待感を漏らした。
ショー会場が少し暗くなるというグッチハウス広報担当者の予告通り、最小限の照明と数百あまりのろうそくがショー会場をほのかに照らしていた。
ミケーレが導いたアルルの由緒ある名所のアリスカンは、4世紀から有名人達の最期の安息場として使用された古代ローマ時代の共同墓地から、17世紀に散策路となった。
墓地であると同時に子供達が走り遊ぶ休息所でもあった、相異なる意味が共存する場所であること。
まさにこの場所でミケーレがクルーズショーを開くと決めたのもそんな理由からだ。
ついに深い暗闇の中から煙が立ち込め、神聖な鐘の音が場内に響き渡った。
ショー直前までガード達が長い行列を作り包囲したランウェイの角に、順に燃え始めた小さな花火が道の先のサントノラ(Saint-Honorat)礼拝堂まで厳かな火の道を作り熱く燃えていた。
神秘的な雰囲気をまとい現れたモデル達は、儀式でも行なっているかのようにランウェイを歩いた。
ダンテの長編叙事詩を金色で刺繍したベルベットドレスを着た19世紀未亡人から、パンクの代名詞ビリーのアイドルに続くまで、ミケーレが拡張させたグロテスクな美学の時間が流れた。
重厚なゴシックルックとビクトリアン衣装、数百のウェディングドレスにスタッズバッグ、ネオンレースTシャツ、プラットフォームブーツにマッチするような境界が曖昧なスタイリングはよりパワフルになった。
華麗なアクセサリーも外せない。
ホースビットスライドを施したビッグトートバッグ、透明なトランスペアレントバッグ、ホテルシャトーマーモント(Hotel Chateau Marmont)のランドリーバッグからインスピレーションを受けたファブリックショルダーバッグ、スタッデッドスポーティーサンダル、そしてビクトリアン風のカメオジュエリーまで。
カイがこの日履いたローファーに刻まれたメジャーリーグベースボールチームのエンブレムも所々で見受けられた。
目の前に広がるドラマチックなキャットウォークを鑑賞するカイの表情にも真摯さがあった。
114着に達する衣装を一つも逃さぬよう瞳と首を忙しなく動かした。
ズビグニエフプライスネル(Zbigniew Preisner)が作曲した追慕曲「ラクリモーサ(Lacrimosa)」のもの悲しい旋律に合わせてフィナーレが始まると、400余のキャスト達は熱い拍手で応えた。
ショーの感興はサントノラ礼拝堂ガーデンで開かれたアフターパーティーに続いた。
熱く燃えた真っ赤なランウェイと異なり、青い照明の垂れたアフターパーティ会場はヴァンゴッホの作品の中のアルルの青い夜空を再現しているようだった。
エルトンジョンの公演を観賞するために舞台の前に席を移動した。
今日という日は、舞台の外で大先輩であるエルトンジョンの公演を観賞することとなったカイの視線が舞台に集中した。
まずマイクを握ったのはミケーレ。
「僕の最も親しい友である彼をある言葉で紹介してみようと思います。地球上で最も情深い人、本当に偉大で驚くべきアーティスト!」
ほどなくグリッターサングラスとエンブロイダリーブラックタキシードに着替えたエルトンジョンがバトンタッチを受け舞台に上がった(クルーズショーが始まるほんの少し前、最後のツアー公演「フェアウェルイエローブリックロード(Farewell Yellow Brick Road)」を最後に引退を発表した彼だからこそ、今日のパフォーマンスは皆にとって格別だった)。
「今日はラナデルレイ(Lana Del Rey)になります」
ミケーレの親友の中の一人であるポップ歌手ラナデルレイに言及したエルトンジョンの愉快な冗談で一気に笑いが広がった。
フランスアルルで、それも由緒ある墓地で、これ以上なく特別な公演が始まった。
"Rocket man", "Your song", "I'm still standing"などポップ名歌手のライブ演奏が続く中、カイは目を輝かせながら公演に浸っていた。
熱情的に舞台を終えたエルトンジョンは、自身の向かい側から公演を見ていたミケーレにハグを提案した。
美しいピアノの旋律に少し涙を零しそうにもなったミケーレは、彼のそばに近づき耳打ちし、二人は抱擁を交わした。
高まる熱気の中アルルの夜は深くなっていくのみだった。
三々五々集まったゲスト達は終わったばかりの公演とショーを話題に会話をしたり、互いにセルフィを撮ったりしてパーティーを楽しんだ。
カイはやはりワイン一口で喉を潤し、パーティモーメントに溶け込んで行った。
彼を見知る海外モデル達がはにかみながら撮影を求めた。
続いて坂口健太郎、ヒップホップミュージシャン・エイサップロッキーとの出会いもあった。
特にアイコニックなスタイルの所有者エイサップロッキーは、カイと写真撮影後、もう一度彼に握手を求めながら「今日の衣装とてもおしゃれだ」とコメントを残した。
その後公演後の休息を取ったエルトンジョンとカイのプライベートな出会いが達成された。
グッチのミューズ達らしく今日の関心事は衣装。
エルトンジョンの配偶者であるデヴィッドファーニッシュ(David Furnish)が、カイが履いているNYロゴのローファーにまず目を付けた。
シューズの話で一つになった三人は、和やかな雰囲気の中で特別な出会いを得た。
最後に今日のショーを陣頭指揮したグッチの手掌アレッサンドロミケーレ(Alessandro Michele)との遭遇まで、カイにとって「今日」は記録したい、輝く瞬間で満ち溢れていた。
彼と一日を共にしたELLEチームに溢れんばかりの感想を伝えた。
言葉を続けた彼は少し頭をもたげて、過ぎた時間をゆっくりと巻き戻しているようだった。
彼の瞳がゆっくり揺れるようだった。
「本当に思い出に残る一日だと思います。」
一夏の夜に書いた叙情詩のようなショーで、ユニークな存在感を立証した彼は次の日、EXOのコンサートのために香港行きの飛行機に身を預けた。
数日後、カイがインスタグラムのアカウントを作ったという話が伝わってきた。
彼の初投稿はランウェイを見つめる「今日」のカイだった。
[関連リンク]
ELLE KOREA 2018年7月号購入はこちらでも可能なようです。